※本コラムは、心理学者および臨床心理士によって、日常に役立つであろう心理学の知識を、毎月連載ものとして記載しています。無断の転載や複製は遠慮願います。

日本での心理検査の歴史と現状

みなさんは、心理検査というと、どんなものを思い浮かべますか?
日本で「心理検査」と聞くと、「心の病」を測るものと捉えられているかもしれません。こうした検査は、心療内科や精神科などで、実施されるものです。この場合の「心理検査」は、病理や社会への適応度、知能などを測定するために用いられることがほとんどです。これが、多くの一般の方のもつ「心理検査」のイメージなのではないかと思われます。今まで日本で開発、使用されてきた「心理検査」は、ほとんどが第2次大戦後の米国の生まれ育ちです。その人の病んでいる面や、能力の上下をつかむことが目的になっています。医療機関では、もちろんこうした検査は必要ですが、日本では、こうした検査が先行して翻訳、輸入されたために、いまだに「心理検査」というと、病理を測る検査のことを指すことが多くなっています。これらには、妥当性・信頼性が確認されているかのようにみえるものもあります。しかし、その多くは、何十年も過去に検証されたきりで、現在の人々に合っていないものや、小さい母集団(統計的に処理するために最小限必要な分析の対象者)でしか検証されていないものです。 また、「心理検査」を別の観点から見てみます。就職活動などで「適性検査」を実施されることもあります。こうした検査を受けたことがあるという方も、多いと思います。しかし、これも、性格を測っているようでいて、実は、社会や組織にどの程度適応できるかを測っています。いわば、自然に、性格に優劣をつけてしまう心理検査です。  それでは、望ましい心理検査というのは、どのようなものでしょうか?
そもそも性格には優劣はなどありません。どのような性格の方でも、その人なりの個性や強み、そして弱みもあります。また、病理や能力の優劣を測定するものでもありません。「深層心理」を見抜く、という検査のように、「当たった」「外れた」という「心理テスト」でもありません。望ましい心理検査は、自分のことをわかってくれている、しっくりくる、という感じがするものです。なお、こうした検査は、能力テストのような意味合いが出ないようにすることはもちろん、受けた人の個性や強みが、間違いなく伝わるものである必要があります。そのためには、しっかりと訓練を受けた心理検査の専門家が実施するのが適切です。欧米では、そのような心理検査が開発され、普及の仕組みが整っています。しかし、日本では、訓練を受けた人にしか実施を許可していない心理検査は、ほんの一部にとどまります。日本において、諸外国のように、心理検査を受けた本人がその豊かさを享受できるようになるには、提供する側の説明責任や専門性の高さが必要です。また、受ける側の意識が変わっていくことも必要でしょう。そして心理検査のグローバル・スタンダード(世界標準)という視点をもって、諸外国との連携が求められてきていると思います。

(心理学者、臨床心理士著)